2017年01月07日

「わが故郷は漆黒の闇」第十一話

「はい、袋のお口をこっちに向けてそのまま持っていてね」
 ケイトは、カタンが支え持つ保存袋にユリが汚した布おむつを収納してジッパーをしっかり閉めた。微かに立ちのぼっていた湯気が透明な保存袋の内側に付いて、うっすらと曇って見える。
「先生、ボビンもお手伝いする」
 カタンが保存袋をバッグに戻している間に、今度はボビンがケイトの前に立った。
「そう、ボビンちゃんもお手伝いしてくれるの。じゃ、バッグから新しい布おむつを取って来てちょうだい。六枚を重ねて一組にして用意してあるから、そのまま持って来てくれればいいわ」
 ケイトは、そっきそうしたようにバッグを目で指し示してボビンに言った。そうして、保存袋をしまい終えたばかりのカタンに向かって声をかける。
「カタンちゃん、おむつと一緒にしまってあるお尻拭きとベビーパウダーを持って来てね。ちゃんとしとかないと、ユリちゃん、おむつかぶれになっちゃうから」
「はーい、ケイト先生」
 二人は同時に声をあげ、ケイトに言われるまま、カタンはお尻拭きとベビーパウダーの容器を持ってケイトのもとに戻り、足早にバッグにのそばに寄ったボビンも少し遅れて新しい布おむつを手にして戻ってきた。
「はい、ありがとう。二人ともお利口さんね」 ケイトは本当の幼児にするみたいに二人の頭を順番に撫でて、カタンの手からお尻拭きの容器を受け取った。
「じゃ、新しいおむつをあてる前に、お尻を綺麗綺麗しましょうね、ユリちゃん。おしっこが残ってるとおむつかぶれになってお尻が赤く腫れちゃうからね」
 ケイトはあらためてユリの足首を差し上げ、空いた方の手でお尻拭きをユリの下腹部に押し当てた。
「んん……」
 ケイトがゆっくり手を動かすのに合わせて、消毒用のアルコールを含んだ不織布のひんやりした肌触りが下腹部を這いまわる。その感触に思わず息を荒げてしまうユリだった。
「あらあら、なんだか気持ちよさそうね、ユリちゃん」
 ケイトは笑いを含んだ声で言って、ユリの顔を見おろした。
「き、気持ちいいだなんて、そんな……」
 きゅっと両目を閉じていても、ケイトがこちらを見ている気配が伝わってくる。その視線を痛いほど感じながら、喘ぎ声でユリは言葉を返した。
「あら、だって、ここがこんなに濡れちゃってるのよ。これ、おしっこじゃないと思うんだけどな」
 ケイトはおかしそうに言って、お尻拭きをユリの秘部に押し当てた。
「や……」
 突然のことにユリの腰がびくんと震える。
「ほら、拭いても拭いても、ねばねばしたおつゆがいくらでも出てくるわよ。気持ちいいから、この恥ずかしいおつゆが出てくるんじゃないかしら?」
 ケイトは、掬い取るみたいにしてお尻拭きをユリの秘部に押し当て動かした。お尻拭きが触れて離れるたびに、ユリの秘部から溢れ出た愛液が、ねばねばした細い糸のようになってお尻拭きの表面から垂れ下がる。
 トイレでケイトにおむつカバーの上からいじられ、エレベーターの中ではシートベルトで責められた下腹部の疼きは、まだ鎮まってはいなかった。そんなところへ、本当の幼児みたいにおむつをおしっこで汚してしまったという屈辱感と羞恥とがないまぜになった、被虐的な、なんとも表現しようのない、奇妙な感覚がますます下腹部を疼かせているのだった。そうして、じんじんと痺れるみたいな疼きをいさめるようなお尻拭きのひんやりした感触が更に被虐感を掻きたてる。
「そう。そんなに、おむつにおしっこするのが気持ちよかったの。これなら、おむつに慣れるのに、あまり時間はかからないみたいね」
 うふふと笑いながら、ケイトは尚もお尻拭きでユリの秘部を責め続けた。




 ――そんなふうにして何度も何度もおむつへの排泄を強要され、それが日常化していって、ついには、尿意を覚えるとまるで我慢できずに知らぬまにおむつを汚してしまう体になってしまったユリ。ケイトに言われるまでもなく、今では一時もおむつを手放すことはできない。女児用のショーツを穿いたとしても、すぐにおもらしで汚してしまうのはユリ自身も痛いほどわかっている。その事実を突きつけられると、何も言い返せなくなってしまうのも無理はない。
「はい、この件はこれでおしまい。じゃ、ユリのおむつを取り替えてあげるから、カタンとボビン、いつもみたいに手伝ってちょうだい」
 ユリが渋々口を閉ざすと、ケイトはぱんと手を打って言い、コントローラーのボタンを押した。
 と、壁の一部が音もなく開いて、木製のベッドが滑り出てくる。それは、ユリが眠る時にいつも使っているベッドだった。ただし、就寝時だけではなく、おむつを取り替えてもらう時にも、ユリはこのベッドの上に横たわることになっている。
「はい、抱っこしてあげるから、おとなしくベッドにねんねするのよ」
 ケイトがユリの体を抱き上げるのと同時に、カタンとボビンが、ベッドの両側に付いている背の高いサイドレールを倒した。
「ありがとう、カタンとボビン。それにしても、おむつのユリにはベビーベッド本当にがお似合いね」
 ケイトは、ことさら『おむつのユリにはベビーベッドが』という部分を強調して言って、ユリをベッドの上に寝かせた。
 ベビーベッド。そう、ユリが横たわったのは、高いサイドレールの付いた木製のベビーベッドだった。カタンとボビンが眠る時に使うのは普通のベッドなのだが、ユリだけは、帰還準備室の居住エリアで眠りについた最初の日からベビーベッドを使うことが強要された。そうして、おむつを取り替える時にも、そのベビーベッドの上でというふうに強要されたのだった。
「やだ、ケイトってば。おむつを取り替えるたびにそうやって意地悪ばかり言うんだから」
 ベビーベッドの上でユリは頬をピンクに染めた。
「なにを言ってるの、意地悪なんかじゃないわよ。ユリ、本当におむつとベビーベッドがお似合いで可愛いからそう言ってるだけなのに」
 ケイトは軽くウインクしてみせてから、ユリのおむつカバーに指をかけた。
「だけど、だけど……」
 訓練が始まってすぐの頃のようにケイトの手から逃げ出そうとはしない。それでもユリは恥ずかしそうに身をよじって弱々しく首を振った。
「あらあら、なんだかご機嫌斜めね、ユリ。いいわ、おとなしくさせてあげる」
 ケイトはくすっと笑うと、一旦おむつカバーに伸ばした手を引っ込め、ベビーベッドの下から備品バッグを取り出してファスナーを引き開けた。
「あ、ベビーパウダーとか新しいおむつなら私たちが用意するから言ってくれればいいのに」
 ケイトが備品バッグに手を突っ込むのを見て、カタンが慌てて言った。
「そうね、おむつやベビーパウダーは、最初にエレベーターに乗った時から二人に用意してもらっているものね。でも、それは後。今は別の物をユリに渡そうと思ってバッグを開けたんだから」
 ケイトは意味ありげな笑みを浮かべてカタンの申し出をやんわりと断った。
「ユリに渡す物?」
 興味深そうに訊くのはボビン。
「そう、とってもいい物よ。――ほら、これでユリのご機嫌なんてすぐに良くなる筈だから」
 悪戯めいた表情でそう言ったケイトがバッグから取り出したのはプラスチック製のガラガラだった。
「ほら、ユリ、ちょっとこの音を聞いてごらん。すぐにご機嫌になるから」
 カタンとボビンが幾らかきょとんとした顔つきで見守る中、ケイトは、ユリの顔の上でガラガラをそっと振った。
 からころ。
 からころ。
 幼児用の玩具のかろやかな音に居住エリアの空気が優しく震える。
「お、おむつとベビーベッドだけでも恥ずかしいのに、その上そんな物で、どれだけ私を子供扱いする……」
 どれだけ私を子供扱いすれば気がすむのよ!? そう言って抗議の声をあげようとしたユリだけれど、途中で言葉が途切れてしまう。
 不思議に思ったカタンがユリの顔を伺うと、目がとろんとして、抗議の声をあげかけていた唇が半ば開いたままになっていた。そうして、ケイトがガラガラを差し出すと、ユリの手がおずおずと伸びて、かろやかな音をたてるガラガラをきゅっと握り締めた。
「どういうことなの、ケイト?」
 子供扱いされるのを嫌がっているユリが何の抵抗もなく幼児用の玩具を受け取ったのを見て、わけがわからず、ボビンは呆れたような顔でケイトに訊いた。
「実は、今朝、あなたたち三人が地球に潜入して施す特殊工作の概要が決定したの。これからその内容を話すから、よく聞いていてほしいの」
 不意に、思いがけない話題をケイトが口にした。
「え? それは、まぁ、聞いておきたいけど……」
「でも、それがこのガラガラとどういう関係があるっていうのよ?」
 突然のことに呆気にとられた顔つきでカタンとボビンはケイトの顔を振り仰いだ。
「うん。実は、このガラガラが特殊工作のために技術局が総力を挙げて開発した武器なのよ。ただ、エネルギーも資材も余裕はないから、武器は一つしか用意できなかったらしいんだけどね」
 ケイトは最後の方は少し悔しそうに小さく溜息を漏らして二人に言った。
「このガラガラが特殊工作用の武器ですって?」
 ユリが小さく手を振るたびにからころと音をたてるガラガラを見つめるカタンとボビンの顔に困惑の色が浮かぶ。
「そう、これが、あなたたちのために用意できた唯一の武器なの。じゃ、工作の概略を話すわね――」
 ケイトは、ユリの手に自分の右手を添え、大きくガラガラを振りながら、上層部から伝えられた特殊工作の概要を説明し始めた。
 その説明を要約すると、特殊工作は、三人が地球に到着するとすぐに開始して、極めて短い時間の内に終了させる短期決戦的なスケジュールで進めることになったらしい。地球に潜入した三人が時間をかけて幾つかの示威的な行動を起こした後にその結果を連邦政府に突きつけて交渉を開始するといった手順ではなく、潜入とほぼ同時にかなり決定的な破壊活動を行い、連邦政府が動揺する隙を衝いて一気に交渉の主導権を握るという方針に基づいた工作スケジュールを採るというわけだ。
 具体的に説明すると、破壊活動の決行日時は、三人が地球に到着した日の午後一番ということになった。カタンたちを乗せてコロニーを出発したシャトルは、十二時間の飛行の後、連邦標準時の午前十一時に連邦首府の宇宙港に到着する予定になっている。宇宙港で簡単なボディチェックを受けた後、三人は地球での養親に引き会わされ、そのまま、首府にある幼稚園に到着する。幼稚園に到着したカタンたち三人を待っているのは、入園式という行事だ。形式的には普通に幼稚園で行われる入園式なのだが、実のところは、コロニーから引き取られて地球の飼い主のもとにやって来た新しいペットの品評会またはお披露目の場といった意味合いが強い。要するに、新しく養親になった高官夫婦が「これが今度うちが飼うことになった新しいペットです。これまでに地球にやって来たペットも可愛いけど、うちのもなかなかのものだと思うから、よろしくお願いしますよ」と他の高官夫婦たちに披露するのが、入園式の本当の目的だ。入園式には、今度は誰がどんなペットを飼うことになったのかを見ようとして、手が空いている高官は殆どやって来る。その数は全高官の内の20パーセントくらいにも達するのが通例だ。多くの高官が夫婦で参加するその入園式の場で生物兵器を使用するというのが三人の行う特殊工作の概略だった。
 使用する生物兵器というのは、偶然ラグランジェポイントに迷い込んできた小惑星の破片らしき物体の成分調査を技術局の職員が行っていた時にみつけて採取したバクテリオファージ様の生物で、一定の条件のもとでは、感染した生物の体を構成する細胞の中に入り込んで細胞核の中にある遺伝子に自らの遺伝子を結合させ、人間の細胞を構成する物質を一つ残らず使って自らを無数に複製し、またたくまに増殖していくという、きわめて危険きわまりない特性の持ち主だった。もちろんのこと、細胞を構成する物質をバクテリオファージ様生物の餌食にされた生物は、感染して三十分間も経たないうちに死に至る。ただ、このバクテリオファージ様生物は誰にでも感染するのではなく、地球の住人を狙うようにコントロールされている。ネオテニー化を促進する遺伝情報の有無でそれがコロニーの住人なのか地球の住人なのかを判別して、ネオテニー化情報を持たない地球住人の細胞内でしか活動しないという特性を持たせるよう技術局が遺伝子操作を施したのだ。
「――ただ、そんな物騒な生物兵器をどうやって地球に持ち込めばいいのか、それが問題だったのよ。少しでも妙な容器を持っていれば、地球に着いた時のボディチェックですぐにみつかっちゃうしね」
 おだやかな表情でガラガラを振るユリの顔に優しく微笑みかけ、ケイトは、あらためておむつカバーの前当てに指をかけながら言った。
「あ、ひょっとして、このガラガラが?」
 急に何か気づいたような表情でカタンがユリのガラガラに目を凝らした。
「うん、そういうこと。カタンの想像通り、技術局は生物兵器の容器をガラガラに偽装することにしたの。赤ちゃんじゃないにしても、まだおむつの外れないユリだもの、ガラガラが大好きで一時も手放さないとしても不思議じゃないでしょう? 愛用のガラガラを地球に持っていくんだって駄々をこねても誰も怪しまないと思うわ」
 ケイトが小さく頷いてユリのおむつカバーの前当てと横羽根を広げると、ぐっしょり濡れた水玉模様の布おむつがあらわになった。
「あ、でも、ユリ、どうしてこんな顔つきをしてるの? ガラガラが生物兵器の容器になってるってことはわかったけど……」
 まだ納得できないという表情で横合いからボビンが口をはさんだ。
「それはね、ガラガラが発する音波がユリの神経中枢に直接作用するようチューニングしてあるからなのよ。簡単に言えば、ユリの気持ちを落ち着かせるような効果のある音をガラガラが出すようになっているの。もっとも、ユリ以外の人間にはただのガラガラの音にしか聞こえないんだけどね」
 ケイトはユリの足首を持ち上げ、たっぷりおしっこを吸った布おむつを手元に引き寄せて、透明の保存袋に収納した。いつもなら保存袋の用意をするのはボビンの役目だが、不思議なガラガラに対する好奇心が先にたってしまい、ユリの手伝いをすることなんてすっかり忘れてしまっている。
「だけど、何のために?」
 ボビンは重ねて訊いた。まるで、どんな時にもどんなことにも「それは何? それはどうして?」と言ってやまない小さな子供そのままだ。
「ガラガラがユリの精神に作用する音波を発生するようにしたのには二つの目的があるのよ。まず、一つめの目的は、いざガラガラから生物兵器を含んだガスを噴出させるという時になってユリが躊躇うことのないようにするため。いくら地球連邦に対して憎しみを抱いていても、少なくない人命を奪うことになると思うと、生物兵器の容器を開けることができなくなってしまうかもしれないじゃない? そんな心の動揺を抑えるためにユリの精神をやわらげるのが一つの目的なのよ」
 ケイトは、お尻拭きでユリの下腹部を綺麗にし、ベビーパウダーをたっぷりはたきながらボビンに言った。その間もユリはうっとりした目をして、さかんにガラガラを振っている。
「次に二つめの目的だけど、これは、ユリがガラガラを片時も手放さないようにするためなのよ。さっきも言ったけど、武器はこれ一つしか用意できないの。そんな大事な武器をなくされちゃ大変だから、ガラガラが手元から離れるとユリが不安感を抱くようにしようってことになったのね。ガラガラから出る音はユリの気持ちを落ち着かせる作用をするんだけど、その音を聞き続けると、今度は逆に音が聞こえないと不安で不安でたまらなくなってくるのよ。つまり、手元にガラガラがないと不安になって、否が応でもガラガラを探すようになるわけ。これが二つめの目的よ」
 ケイトは、六枚を重ねて一組にした新しい布おむつをユリのお尻の下に敷き込んだ。
「ああ、そういうことだったの。それでわかったわ」
 ボビンはケイトの顔とユリのガラガラを見比べて、ようやく納得したように言った。そうして、少しばかり不憫そうな眼差しでユリの顔を見て呟く。
「それにしても、ユリは大変な役を引き受けちゃったのね。幼稚園児のふりをするなんて、カタンも私も考えてもみなかったけど、ユリなんて、殆ど赤ちゃんみたいな役回りだもんね。おしっこはおむつの中だし、ミルクやジュースを飲む時はゴムの乳首が付いたカップだし、今度はガラガラをいつも持ってなきゃいけないなんて。私だったら、とてもじゃないけど恥ずかしくてできないだろうな。私には幼稚園の年中さんを演じるのが精一杯だわ」
「それだけ、みんながユリに期待してるってことよ。工作の正否は、ユリの行動にかかっているのよ。この、おむつっ子のユリにね」
 ケイトは、おむつカバーの横羽根と前当てを手早くマジックテープで留めると、おむつでぷっくり膨れたユリのお尻を、おむつカバーの上から何度も何度も優しく叩いた。
 使用する生物兵器というのは、偶然ラグランジェポイントに迷い込んできた小惑星の破片らしき物体の成分調査を技術局の職員が行っていた時にみつけて採取したバクテリオファージ様の生物で、一定の条件のもとでは、感染した生物の体を構成する細胞の中に入り込んで細胞核の中にある遺伝子に自らの遺伝子を結合させ、人間の細胞を構成する物質を一つ残らず使って自らを無数に複製し、またたくまに増殖していくという、きわめて危険きわまりない特性の持ち主だった。もちろんのこと、細胞を構成する物質をバクテリオファージ様生物の餌食にされた生物は、感染して三十分間も経たないうちに死に至る。ただ、このバクテリオファージ様生物は誰にでも感染するのではなく、地球の住人を狙うようにコントロールされている。ネオテニー化を促進する遺伝情報の有無でそれがコロニーの住人なのか地球の住人なのかを判別して、ネオテニー化情報を持たない地球住人の細胞内でしか活動しないという特性を持たせるよう技術局が遺伝子操作を施したのだ。
「――ただ、そんな物騒な生物兵器をどうやって地球に持ち込めばいいのか、それが問題だったのよ。少しでも妙な容器を持っていれば、地球に着いた時のボディチェックですぐにみつかっちゃうしね」
 おだやかな表情でガラガラを振るユリの顔に優しく微笑みかけ、ケイトは、あらためておむつカバーの前当てに指をかけながら言った。
「あ、ひょっとして、このガラガラが?」
 急に何か気づいたような表情でカタンがユリのガラガラに目を凝らした。
「うん、そういうこと。カタンの想像通り、技術局は生物兵器の容器をガラガラに偽装することにしたの。赤ちゃんじゃないにしても、まだおむつの外れないユリだもの、ガラガラが大好きで一時も手放さないとしても不思議じゃないでしょう? 愛用のガラガラを地球に持っていくんだって駄々をこねても誰も怪しまないと思うわ」
 ケイトが小さく頷いてユリのおむつカバーの前当てと横羽根を広げると、ぐっしょり濡れた水玉模様の布おむつがあらわになった。
「あ、でも、ユリ、どうしてこんな顔つきをしてるの? ガラガラが生物兵器の容器になってるってことはわかったけど……」
 まだ納得できないという表情で横合いからボビンが口をはさんだ。
「それはね、ガラガラが発する音波がユリの神経中枢に直接作用するようチューニングしてあるからなのよ。簡単に言えば、ユリの気持ちを落ち着かせるような効果のある音をガラガラが出すようになっているの。もっとも、ユリ以外の人間にはただのガラガラの音にしか聞こえないんだけどね」
 ケイトはユリの足首を持ち上げ、たっぷりおしっこを吸った布おむつを手元に引き寄せて、透明の保存袋に収納した。いつもなら保存袋の用意をするのはボビンの役目だが、不思議なガラガラに対する好奇心が先にたってしまい、ユリの手伝いをすることなんてすっかり忘れてしまっている。
「だけど、何のために?」
 ボビンは重ねて訊いた。まるで、どんな時にもどんなことにも「それは何? それはどうして?」と言ってやまない小さな子供そのままだ。
「ガラガラがユリの精神に作用する音波を発生するようにしたのには二つの目的があるのよ。まず、一つめの目的は、いざガラガラから生物兵器を含んだガスを噴出させるという時になってユリが躊躇うことのないようにするため。いくら地球連邦に対して憎しみを抱いていても、少なくない人命を奪うことになると思うと、生物兵器の容器を開けることができなくなってしまうかもしれないじゃない? そんな心の動揺を抑えるためにユリの精神をやわらげるのが一つの目的なのよ」
 ケイトは、お尻拭きでユリの下腹部を綺麗にし、ベビーパウダーをたっぷりはたきながらボビンに言った。その間もユリはうっとりした目をして、さかんにガラガラを振っている。
「次に二つめの目的だけど、これは、ユリがガラガラを片時も手放さないようにするためなのよ。さっきも言ったけど、武器はこれ一つしか用意できないの。そんな大事な武器をなくされちゃ大変だから、ガラガラが手元から離れるとユリが不安感を抱くようにしようってことになったのね。ガラガラから出る音はユリの気持ちを落ち着かせる作用をするんだけど、その音を聞き続けると、今度は逆に音が聞こえないと不安で不安でたまらなくなってくるのよ。つまり、手元にガラガラがないと不安になって、否が応でもガラガラを探すようになるわけ。これが二つめの目的よ」
 ケイトは、六枚を重ねて一組にした新しい布おむつをユリのお尻の下に敷き込んだ。
「ああ、そういうことだったの。それでわかったわ」
 ボビンはケイトの顔とユリのガラガラを見比べて、ようやく納得したように言った。そうして、少しばかり不憫そうな眼差しでユリの顔を見て呟く。
「それにしても、ユリは大変な役を引き受けちゃったのね。幼稚園児のふりをするなんて、カタンも私も考えてもみなかったけど、ユリなんて、殆ど赤ちゃんみたいな役回りだもんね。おしっこはおむつの中だし、ミルクやジュースを飲む時はゴムの乳首が付いたカップだし、今度はガラガラをいつも持ってなきゃいけないなんて。私だったら、とてもじゃないけど恥ずかしくてできないだろうな。私には幼稚園の年中さんを演じるのが精一杯だわ」
「それだけ、みんながユリに期待してるってことよ。工作の正否は、ユリの行動にかかっているのよ。この、おむつっ子のユリにね」
 ケイトは、おむつカバーの横羽根と前当てを手早くマジックテープで留めると、おむつでぷっくり膨れたユリのお尻を、おむつカバーの上から何度も何度も優しく叩いた。


 いよいよ、三人が地球に向けて出発する日がやって来た。
 エレベーターが停止して、カタンたち三人とケイト、それに高等助言官が隔壁第三層の浮遊部分におり立ち、そこから第二層に移動すると、地球から飛来したシャトルの乗員が待機していた。地球からシャトルがやって来る時はコロニーへの援助物資を積んでいるのだが、帰路に地球へ『帰還』する子供たちを搭乗させる場合は、援助物資の量がいつもよりも目に見えて多い。そんな、これみよがしな連邦高官の態度に胸の中で舌打ちしながらも、外見は平静を襲おうケイトを先頭に、一行はシャトルに乗り込んだ。


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2010年12月27日

「わが故郷は漆黒の闇」第十話

エレベーターの内部には、保護官用の大きめの座席が二つと、子供向けの小振りな座席が四つ据え付けてある。ケイトはカタンとボビンを前列の座席に座らせて体をシートベルトで固定してから、ユリをカタンの後ろのシートに座らせた。

 耐Gシートになっている座席は他の乗り物の座席に比べると幾らかふわふわした感じで、座った途端、ユリの体が幾らかバックレストにめりこむ。

「きゃっ」

 慣れない者には妙に不安定に感じられる座り心地に、ユリは思わず小さな悲鳴をあげてしまった。

「大丈夫よ、ユリちゃん。最初はびっくりするけど、じきに慣れるから。慣れたら、揺りカゴの中にいるみたいで気持ちよくなるからね」

 座席のバックレストに上半身をめり込ませて両手をばたばたさせているユリにケイトは優しく言い聞かせながら、シートベルトに手を伸ばした。シートベルトといっても、自動車のベルトように簡単な構造の物ではなく、クッションの付いた固定具で肩と胸元を押さえて上半身を固定し、下半身の方は、腿のあたりと足首のあたりをベルトで固定するといった、遊園地のジェットコースターの安全装置をもっと大がかりにしたような構造の物だ。もちろん、一時もじっとしていなくてすぐに暴れ回る子供たちが座席から振り落とされないようにするためなのは言うまでもない。

 ケイトは、ユリの上半身を固定具で固定し、足首もベルトでしっかり固定してから、腿のあたりを固定するベルトのバックルを持ち上げた。

「ケイト保護……せ、先生、もうこれくらいでいいんじゃないんですか」

 ケイトが手を動かすたびに体の自由が奪われてゆく。その不安に嫌な予感を覚えて、ユリはおそるおそるケイトに言った。

「駄目よ。小っちゃい子はすぐに暴れ回るから、少しきついくらいに体を固定しておかないと、いつどんな事故になるかわからないもの」

 ケイトは幅の広いベルトを座席の下から引き出して、ユリの右脚の腿に押し当てた。

「でも、私、本当は子供じゃありません。ちゃんとおとなしくしてますから、あまり体を固定しないでください」

 ユリはそう言いながら身をよじった。

 けれど、分別のない子供が勝手にベルトを外してしまわないようにするため肩口から肘のあたりまでしっかりバックレストに押さえつけるようになっている固定具のせいで、微かな身じろぎしかできない。それをいいことに、ケイトは、ユリの右脚の腿をさっさとベルトで座面に固定してしまう。そうして、今度は左脚を強引に開かせて、こちらも幅の広いベルトで座面にしっかり固定する。

「そんな我儘を言っちゃいけないわね。地球に着いたら、地球の生活に慣れるためにコロニーでどんなことを教えてもらったか訊かれるかもしれないのよ。もちろん、地球の重力に慣れるための訓練についても尋ねられるかもしれない。そうしたら、エレベーターにどんなふうに乗ったのか、それも説明しなきゃいけないのよ。それが他の子供たちと違った乗り方だと正体を怪しまれるかもしれないでしょ? だから、他の子供たちとまるで同じことを経験しとかなきゃいけないのよ」

 ケイトは、留めたばかりのベルトの位置を調整しながら言った。

「で、でも、そんなにきつくしなくても……あん!」

 突然、ユリが喘ぎ声を漏らした。ケイトがベルトの位置を動かして、それまで太腿を固定していたのを、もう少し上の方、もう殆ど股間に触れるくらいになるよう調整し直したせいだ。幅の広いベルトの端は、おむつカバーの上からユリの感じやすい部分を締めつけているかもしれない。

「や、やだ……ケイト保……先生、ベルトの位置をもう少し……」

 ケイトの指とは違って無遠慮に秘部をおむつカバーの上から押さえつけるベルトの感触に小刻みに腰を震わせて、ユリは途切れ途切れに言った。

 けれどケイトはユリの懇願などまるで無視して

「さ、できた。じゃ、行くわよ」

と言って自分も席につくと、手早く固定具を操作して、保護官用シートのアームレストに設置してあるコンソールのボタンを押した。

 短い警告音が鳴り響いて、その直後、エレベーターが加速を開始した。

 いつも体感している疑似重力の0.3Gに倍する0.6Gの加速が四人を座席に押しつけ、なおいっそうバックレストに体をめり込ませる。

「きゃっ」

「すごっ」

 カタンとボビンが同時に感嘆の声をあげた。

 そうして、それから僅かに遅れて、ユリの口から

「いや〜っ」

という悲鳴じみた声が漏れる。予想以上の加速Gに対する驚きというだけではない、もっとなんだか切羽詰まった状況におちいったらしいことが誰にもわかるような、そんな悲鳴だった。



 隔壁に沿って鉛直方向に走行を続け、やがてエレベーターの速度が殆どゼロになる頃、隔壁第三層中心部の浮遊部分への連絡口に到着する。

 僅かに残った速度を到着場所の短い区間にだけ設置されたリニアモーターで減速して、四人を乗せたエレベーターは滑らかに停止した。

 エレベーターが完全に停止したことを確認したケイトは上半身を押さえつけている固定具をはね上げ、手早くシートベルトを外して、出発時には後ろ側の壁だった床に立つと、足早に最前列の座席に向かって、カタンとボビンの固定具とシートベルトをフリーにした。

 それから、くるりと振り返って、まだ座席に固定されたままのユリの顔をおもむろに覗きこむ。

 ユリは、今にも泣きだしそうな顔をしていた。


「あらあら、そんなにエレベーターの加速が怖かったの? でも、もう大丈夫よ。エレベーターはもう止まってるからね」

 ユリがどうして悲鳴をあげたのか、ケイトは充分に承知している。秘部をシートベルトでおむつカバーの上から押さえてユリの感じやすい部分に対する刺激が続くようにした上で、エレベーターをいつもよりも激しく加速させたのだ。これまでずっと我慢していたおしっこをユリが漏らしてしまったとしても、なんの不思議もない。そのことを承知していながら、瞳を潤ませているユリに向かって、わざととぼけて訊くケイトだった。

「……」

 それに対してユリは何も応えられない。まさか、おむつを汚してしまったと自分の口から言えるわけがない。

 けれど、ケイトの方は何があったのか手に取るようにわかっている。ケイトは片方の眉を吊り上げると、納得顔で頷いた。

「そう。エレベーターが怖かったわけじゃないの。じゃ、これが原因ね」

 ケイトはユリの足首と腿を固定しているシートベルトを手早く外した。そうして、ユリの上半身をバックレストに押しつけている固定具を外すことなく、座席のリクライニングレバーを引く。

 微かな電動音が聞こえ、ユリが座っているシートのバックレストがモーターでゆっくり仰向けに倒れ始めた。同時に、ユリが足を乗せているフットレストが床から離れて、バックレストの動きに合わせて徐々にせり上がってくる。

 耐Gシートだった座席がフルフラットの簡易ベッドに姿を変えるのに、さほど時間はかからなかった。

「な、何をするんですか!?」

 いいようのない不安を覚え、ユリは涙に潤む両目を大きく見開いてケイトの顔を見上げた。

「すぐにすむからおとなしくしててね。ユリちゃん、聞き分けのいいお利口さんだから、ちゃんとしてられるよね」

 ケイトは本当の幼児をあやすような口調で言って、簡易ベッドに横たわるユリのスカートをお腹の上まで無造作に捲り上げた。パステルピンクの生地にハローキティのプリントをあしらったおむつカバーが丸見えになる。

「や、やだ!」

 突然のことにユリは慌ててスカートを押さえようとするのだが、肩口から肘のあたりまでを固定具に押さえつけられているせいで、指先は虚しく宙を切るばかりだ。

「駄目よ、暴れちゃ」

 ケイトは甘い声で囁きかけて、ユリのお尻を包み込んでいるおむつカバーの裾にそっと右手を差し入れた。

「やだってば、本当にそんなことやだってば!」

 ユリは後頭部をバックレストにこすりつけんばかりにして激しく首を振った。けれど、固定具のせいで僅かに身じろぐことしかできない。

「あらあら、何をむずがってるのかしら、ユリちゃんてば。私はユリちゃんのおむつが濡れてないかどうか確かめてあげているだけなのに」

 ケイトは、おむつカバーの中に差し入れた右手をもぞもぞと動かしながらユリに言って聞かせる。

 そのケイトの言葉を、座席に座ったまま所在なげにしていたカタンとボビンは聞き逃さない。

「え? おもらししちゃったの、ユリちゃん」

「ユリちゃん、おむつにおもらしなの?」

 二人はぱっと座席から立ち上がると、ユリが横たわる簡易ベッドに向かって駆け出した。

 と、二人そろって体が大きく跳ね上がり、もう少しで頭をエレベーターの天井にぶつけそうになってしまう。

「ほらほら、二人とも気をつけないと危ないわよ。ここまで来ると、重力はすごく小さいんだから」

 手足をばたつかせてかろうじて頭を天井にぶつけずにすんだ二人の様子に、ケイトは苦笑交じりの声で言った。今、エレベーターが停止している位置は、直径60メートルの浮遊部分のすぐ外側だ。疑似重力は作用しているものの、直径3kmに及ぶコロニー円周での疑似重力に比べると、その強さは2パーセントしかない。そんな微少重力しか作用していない場所では、身動き一つ一つに気をつけないと、とんでもないことになる。

 どうにか床の上に戻った二人はエレベーター内部のあちらこちらに設置してある取っ手をつかんで、今度は慎重な足取りで簡易ベッドのそばにやって来た。

「ケイト先生、ユリちゃん、おもらしなの?」

 トイレへ行く時にボビンがそうしたのを真似て、カタンは幼児言葉でケイトに尋ねた。

「そうよ。ほら」

 おむつカバーの裾から右手を引き抜いたケイトは、おむつカバーの前当てに指をかけて軽く引っ張った。

 さほど力を入れていないようなのに、おむつカバーの前当てと横羽根とを留めているマジックテープが、ベリリッとエレベーター内の空気を震わせる音をたてて外れた。

「ね? フィールドキャンセラーを使っていないのに、マジックテープが感嘆に外れたでしょ? これは、おむつカバーの中がぐっしょり濡れているからよ」

「でも、どうして? ユリちゃん、先生と一緒にトイレ行ったでしょ? トイレ行ったのに、どうしてまたすぐにおもらしなの?」

 カタンは好奇心満々の幼児を演じながら重ねて訊いた。

 エレベーターに乗る前、カタンとボビンに続いて、ユリもケイトに連れられてトイレへ行っている。トイレで何があったのかを知らないカタンとボビンにしてみれば、ユリがケイトに手伝ってもらっておしっこをすまたものだと思いこんでいるから、それから殆ど時間が経っていないのにすぐまた粗相をしてしまったのが不思議でならない。


「あのね、ユリちゃんはね、トイレでおしっこできなかったのよ」

 ケイトは、おむつカバーの前当てをユリの両脚の間に広げて置きながら、カタンに向かって小さく首を振ってみせた。

「どうして? どうしてユリちゃん、トイレでおしっこしなかったの?」

 これは何? どうしてそうなるの? それが小さな子供の口癖だ。今度はボビンがそんな幼児を真似てケイトに訊く。

「ううん。しなかったんじゃなくて、できなかったの」

 ケイトはボビンの言葉をやんわりと、けれど、ユリの耳にもちゃんと届くようにはっきりした声で訂正した。

「だって、ほら、ユリちゃんは年少さんでまだおむつが外れないでしょう? だから、ちゃんとトイレでおしっこできなかったの。まだトイレのお稽古は早かったのね、おむつのユリちゃんには」

「あ、そっかー。カタンお姉ちやんは年長さんだし、ボビンは年中さんだからちゃんとトイレでおしっこできるけど、年少さんのユリちゃんはまだ小っちゃくておむつだから、トイレちゃんとできないんだね。そうだよね、ちゃんとトイレできたら、おむつバイバイだもんね」

 ボビンは、年中のちょっとお姉さんふうに胸を張ってみせた。

「うん、そういうことね」

 ケイトは言って、前当てに続き今度は左右の横羽根を外して、ユリの腰の両側に広げて置いた。

 おむつカバーの前当てと横羽根が広げられてしまうと、ユリの下腹部をくるんでいる布おむつがすっかり丸見えになる。

「あ、ほんとだ。ユリちゃんのおむつ、ぐっしょりだぁ」

 まだおしっこが出てしまって間もないため微かに湯気のたっている布おむつを見て、カタンが大声を出した。

「や、やだ、カタン、そんなこと言わないでよ。私たち同期でずっと友達なのに……そんなひどいこと、口に出して言わなくてもいいじゃないよ」

 ユリはぎゅっと両目を閉じて、羞恥に震える声で弱々しく言った。

「違うもん。カタンは年長さんでユリちゃんは年少さんだもん。同じじゃないもん。ね、ケイト先生?」

 くすくす笑いながら、カタンは盛んに幼児を演じてみせる。最初は自分の恥ずかしさをまぎらわせるためだったのが、いつのまにか、ユリを手のかかる妹分扱いするのが面白くてたまらないというふうになってきているみたいだ。

「そ、そんな……でも、ボビンは私の味方だよね? カタンみたいにひどいこと言わないよね?」

 ユリは両目の瞼を閉じたまま、すがるようにボビンに言った。

「ボビン、年中さんだよ。年少さんでおむつの取れないユリちゃんとは違うよ。ボビン、ちゃんとトイレでおしっこできるお姉ちゃんだもん」

 カタンに調子を合わせて、ボビンも幼児を演じることを忘れない。

「はいはい、お喋りはそれくらいにして、おむつを取り替えましょうね。いつまでも濡れたおむつだとお尻が気持ち悪いでしょ? お姉ちゃんたちが見ててくれるから寂しくないわね」

 三人がやり取りする様子を面白そうに眺めていたケイトが、ユリの両方の足首をまとめてつかんで高々と差し上げた。

「い、いやぁ……」







 不意に足首を持ち上げられて、ユリは再び激しく首を振った。けれど、上半身を固定具に押さえつけられ、両手も自由に動かせないユリには、ケイトの手から逃れる術はない。

「あらあら、なにをむずがっているのかしら、ユリちゃんてば。せっかく新しいふかふかのおむつに取り替えてあげるのに」

 ケイトはわざと不思議そうな表情を浮かべて、更にユリの足首を高々と差し上げた。もともとユリの体が幼児並みに小さいのに加えて、疑似重力が小さな地点にいるから、さほど力は要らない。

 ケイトがユリの足首をつかんで持ち上げると、簡易ベッドとユリのお尻との間に少し隙間ができる。ケイトはその隙間を使って、ぐっしょり濡れてユリの下腹部にべっとり貼り付く布おむつを手元にたぐり寄せた。

「カタンちゃんとボビンちゃん、先生のお手伝いをしてくれるかな?」

 ケイトは手元に引き寄せた布おむつをそっとつかみ上げると、二人に向かって優しい声で言った。

「はい、先生。カタン、年長さんだからお手伝いできるよ」

 先に返事をしたのはカタンだった。

「そう。じゃ、先生が座っていたシートの横に置いてあるバッグを開けて、その中から透明のビニール袋を持ってきてちょうだい」

 ケイトは布おむつを手にしたまま、自分が座っていた座席の方を目で指し示した。

「はーい」

 カタンは短く応えると、最後尾のシートに歩み寄って、ケイトの言う通り、透明の袋を持って戻ってきた。

「ね、先生、これ、何の袋?」

 好奇心旺盛な幼児そのまま、カタンは、取ってきたばかりの透明の袋を開けてケイトの方に差し出した。

「これはね、ユリちゃんが汚しちゃったおむつを入れておく袋なのよ。濡れたおむつ、そのままバッグに入れてなんておけないものね。この袋に入れて持って返って、リサイクルセンターに渡すのよ。そうしたら、おむつが吸い取ったユリちゃんのおしっこが綺麗なお水になるの」

 その説明の通り、ケイトが備品バッグに入れて持ってきていたのは、防水性と気密性に優れた保存袋だった。ユリが汚した布おむつをこの中に入れてジッパーを閉じると、少々手荒く扱っても、おしっこが漏れ出すことはない。そして、この袋に入れたまま布おむつをリサイクルセンターに持っていけば、飲用にもできる水に再生してくれるのだ。トイレに排泄した尿がリサイクルセンターに集められて再生処理を受けていることは、コロニーの住人なら誰でも知っている。布おむつが吸い取った幼児のおしっこが再生されていることも民政局職員であるユリは知っている。けれど、自分が汚してしまったおむつがリサイクルセンターに持ち込まれて、おしっこが飲料水に生まれ変わり、誰かが口にするのかと思うと、身震いするほどの羞恥に体中を包まれるのを止められない。



2010年12月13日

「わが故郷は漆黒の闇」第九話

「二人が終わっているんだったら、それでいいじゃない。どうしてユリちゃんが困ることがあるのかしら?」

 ケイトは、さも不思議だという顔をしてみせる。

「だって、だって、私もトイレに……」

 ユリは、トイレの入り口になっているあたりの壁をちらちらと見て言った。

「あらあら、おかしなことを言う子だこと。ユリちゃんはトイレへ行く必要なんてない筈よ。だって、ユリちゃん、幼稚園の制服の下に着けている下着は何だったかしら?」

 ケイトはすっと目を細めて今度は体ごと振り返ると、まるでユリのスカートの中を覗き込むみたいに腰をかがめた。

「……」

 ユリは何も言えない。

 カタンやボビンみたいに床にお尻をぺたんとつけた座り方だと恥ずかしい下着が丸見えになってしまうのがわかっているから、正座なんていう慣れない座り方をして、なるべくスカートが広がらないよう気をつけているユリだ。けれど、スカート丈が短いものだから、そんなふうに注意していても、きちんと揃えた両脚の太腿のあたりはスカートの裾から出ていて、恥ずかしいおむつカバーも少しだけ見えてしまっている。それを目にすると、それ以上は何も言えなくなってしまうのだった。

「そうよ、ユリちゃんはおむつなのよ。おむつをあてているから、トイレなんて行かなくていいの。おもらししちゃっても柔らかな布おむつがおしっこを吸い取ってくれるから心配しなくていいのよ」

 一旦は真ん中のドアの方に歩きかけていたケイトだが、少し何か考えるような顔つきになると、急にこちらへ戻ってきて、ユリの両脇の下に手を差し入れて、そっと立たせた。

「……でも、そうね、ユリちゃんがトイレへ行きたいんだったら連れて行ってあげる。さ、お手々を引いてあげるからついてらっしゃい」

 ユリを立たせたケイトはそう言うと、ユリの右手を引いて歩き出した。

「本当? 本当にトイレなんですね?」

 ユリは、並んで歩くケイトの顔を見上げて聞き返した。

「本当よ。だって、ユリちゃんもトイレへ行きたいんでしょう?」

 ケイトはユリの顔を横目で見おろして応える。

「は、はい。ずっとトイレへ行きたかったんです。でも、なかなか言い出せなくて。それを最初にカタンが言ってくれたから、助かったって思って……」

 さほど広くない居住エリアだから、ユリがみんな言い終わらないうちにトイレの前に着いてしまう。

 二人が壁の前に並んで立つと、ドアがすっと開いた。

「そう。ずっとトイレに行きたかったの」

 ドアが開くのを待って、ケイトは、ユリの言葉を繰り返した。

「はい」

 ユリが短く応える。

 自治行政院の幹部会議から口頭で辞令を言い渡され、気がつけば帰還準備室に連れて来られて、ケイトからいろいろ説明を受けて、その間あたふたしていて、水を飲むゆとりもトイレへ行く暇もなかった。それがようやく束の間の休憩時間になって、ついさっき飲んだジュースのせいもあるのだろう、いよいよ尿意が強くなってきていた。ただ、そのことをついつい言いそびれてしまい、どうしようかと思案していたところに最初にカタンが口火を切ってくれたおかげで、ようやくトイレタイムになった。それでも、人間の手では外すことのできない電磁マジックテープを使ったおむつカバーのせいで、ちゃんとトイレをすませられるかどうか心配だった(実際、ケイトは、一度は、おむつなんだからトイレなんて行かなくていいのよと言ったのだから)。それでも、どういう風の吹きまわしか、ケイトがトイレへ連れて行ってくれるというのだ。トイレに入ってからフィールドキャンセラーでおむつを外してくれるんだろうなと万全と考えて、ユリは安堵に胸を撫でおろす思いだった。



 二人がトイレの中に足を踏み入れると同時に音もなくドアが閉じた。

「はい、ここがトイレよ。さっきも言ったけど、ユリちゃんはおむつだから、本当はトイレなんて行かなくていいのよ。でも、年中さんのお姉ちゃんになる頃にはおむつとバイバイしてトイレへ行かなきゃいけなくなるから、今のうちに少しだけトイレの練習もしておこうね」

 ケイトは再びユリの両脇に手を差し入れて抱き上げ、そのまま、便座の上に座らせた。

「え? あ、あの……」

 てっきりおむつを外してもらえるものだと思っていたユリは、きょとんとした顔でケイトの手元を見つめるばかりだ。

 けれど、ケイトがスペースジャケットのポケットからフィールドキャンセラーを取り出す気配はまるでない。

「あら、どうしたの、ユリちゃん? 何をそんなに不思議そうな顔をしているのかしら?」

 ケイトはすっと腰をかがめると、おむつのまま便座に座らせたユリと目の高さを合わせて僅かに首をかしげてみせた。

「だって、あの……このままじゃ、お、おしっこができないんです」

 まだケイトが何をしようとしているのかわからず、きょとんとした顔で、頬だけをうっすらとピンクに染めてユリはぽつりと言った。

「何を言ってるの、ユリちゃんてば。そのままでいいのよ。ユリちゃんはおむつなんだから、おむつの中におしっこしちゃっていいのよ。ただ、いつかはおむつ外れしなきゃいけないから、トイレにどんなふうに座ればいいのか、その練習をしているだけなんだから」

 ケイトはしれっとした顔で言った。

「え……?」

 何を言われたのか咄嗟には理解できなくて、二度三度とまたたきを繰り返してケイトの顔をぽかんと眺めるばかりのユリ。

「トイレでちゃんとおしっこをするのは、年中さんのお姉ちゃんになってからでいいのよ。おしっこが出ちゃいそうなのがわかって、ちゃんとおしっこを先生に教えられるお姉ちゃんになってからでいいの。ユリちゃんはまだ年少さんの中でも小っちゃい方だから、おむつにおしっこでいいのよ」

 ケイトは、便座に座らせたユリのスカートをそっと捲り上げ、おむつカバーに包まれた下腹部に右手の掌を押し当てた。


「お、おしっこなら、ちゃんと言えます。おしっこが出そうなのも、ちゃんとわかります。わかるからトイレへ行きたいって言ったんです。だから、おむつを外してください。お願いだから」

 おむつを外してもらえそうにないということにようやく気がついて、ユリは弱々しく首を振って懇願した。







「そうね、ちゃんとおしっこを言えるわね、ユリちゃんは。でも、今ちゃんと言えても駄目なの。ユリちゃんはこれからおむつっ子になるのよ。いつもおむつをあてていて、気がつくとおむつをおしっこで濡らしちゃう、本当の小っちゃな子になるの。その方が地球に潜入しやすいからね。それで、地球に着いて、新しいパパとママにトイレトレーニングをしてもらって、またもう一度ちゃんとおしっこを言えるようになったら、その時はトイレでおしっこをすればいいわ。でも、今からは、おむつを外すためのトイレトレーニングじゃなくって、おむつに慣れるためのおむつトレーニングが始まるのよ。だから、トイレに連れて来てあげたの。もう二度と座ることのない便座の座り心地を最後にもう一度だけ経験させてあげるためにね」

 ケイトは、教え諭すような口調でゆっくりとユリに言った。

「そ、そんな……」

「言った筈よ。このおむつカバーに使っている電磁マジックテープは或る程度の水分を感知すると外れるようになっているって。つまり、ユリちゃんがおしっこでおむつを濡らさない限り、絶対に外れないのよ」

「で、でも、フィールドキャンセラーを使えば……」

 ユリはおそるおそる言った。

「駄目よ。フィールドキャンセラーは、新しいおむつを用意するためにマジックテープを外さなきゃいけない時とか、お洗濯の後に干すのにマジックテープを外さなきゃいけない時とか以外は使わないことにしているの。だから、このおむつは、ユリちゃんがおしっこをするまでは絶対に外れないのよ」

 ケイトはユリの下腹部を包み込むおむつカバーを掌でぽんぽんと叩いて言った。そうして、不意に意味ありげな微笑みを浮かべると、ボビンのショーツにそうしたように、ユリの感じやすい部分をいたぶるみたいに、右手の中指をおむつカバーの上に突き立てて、ぐっと押した。

「な……」

 思いもかけないケイトの行動に、ユリの顔がぱっと赤く染まる。

 それに対して、ケイトは平然とした様子で右手を蠢かせ、笑みを浮かべたまま言った。

「いくら言葉でおむつに慣れなさいって言われても難しいわよね。これまでちゃんとトイレでおしっこをしてきたのに、急におむつにしなさいって言われても、なかなかできるものじゃないわよね。だから、急にじゃなくって、少しずつ慣れていけばいいわ。ユリちゃんを便座に座らせてあげたのには、そういう意味もあるのよ。いつもおしっこをするのと同じように便座に座れば、慣れないおむつの中にでも少しはおしっこしやすいかなと思ってね」

 そこまで言ってケイトは中指を動かすのをやめた。

 思わずユリが安堵の溜息を漏らす。

 と、その隙を待っていたみたいにケイトの右手が再び動いた。中指を鈎みたいな形に曲げ、ユリの秘部を、おむつカバーの上からくいっとまさぐる。

「あ……」

 緊張が解けて幾らか油断していたところへの仕打ちだから堪らない。ユリの口から漏れ出たのは、悲鳴というよりは喘ぎ声といった方が近い、ひどくなまめかしい声だった。『ねんしょうぐみ・ユリ』と書いた名札を胸元に付けた幼稚園を制服を着て、おむつでお尻を大きく膨らませた姿からはとてもではないが想像もできない、ひどく大人びた、ひどく淫靡な呻き声だった。

「それに、ほら、こうすれば下半身の力が抜けておしっこがしやすくなるでしょう? ボビンちゃんの時はパンツがおしっこで濡れていないかどうか調べてあげただけだったんだけど、ユリちゃんには、おしっこが出やすくしてあげるわね」

「い、嫌です! おしっこなんて、おしっこなんて、したくありません!」

 逃げ場のない便座の上、それでも少しでもケイトの手から離れようとして両脚を突っ張ってユリはかぶりを振った。

「あら、おかしいわね。あんなにトイレへ行きたがっていたのは誰だったっけ。おしっこがしたいからトイレへ行くって喚いていたのは誰だったのかしら」

 くすくす笑って、ケイトはなおいっそう強く中指をおむつカバーの上に突き立てた。

「やだ、そんなことしちゃやだってば……お、おしっこはしたいけど、ちゃんとトイレでしたいんです……お、おむつの中なんかじゃありません……」

 ユリは涙目で訴えた。

「でも、おむつに慣れてもらわないといけないからね、ユリちゃんには」

 ケイトはユリの敏感な部分をおむつカバーの上から何度も優しくいたぶり続けた。ケイトの指の動きに合わせて、柔らかな布おむつがユリの秘部を撫でさする。


「くぅ……」

 突然、ユリの顔つきが変わった。それまではおどおどもじもじしていたのが、きゅっと目を閉じて、なんだか見ようによっては、とろんとしたような表情になっている。

 けれど、すぐにユリはぶるんと首を振って下唇を噛みしめると、ケイトに責められて幾らか開きぎみになっていた両脚を閉じようとする。

「出ちゃった?」

 うふふと笑い声をたてながらケイトはユリの顔を正面から見おろした。

「……」

 ケイトは無言で首を振る。

 だけど、本当のことを言えば、少しだけれどおしっこが漏れ出て布おむつを僅かに濡らしてしまっていた。ただでさえ尿意が高まっていたところへケイトが指で責めるものだから、とうとう我慢できなくなって、おしっこが溢れ出てしまったのだ。それを、もう幾らも残っていない気力を振り絞ってかろうじて止めるユリだった。男性に比べて尿道の短い女性は、いわゆる「ちびってしまう」状態になりやすいし、一旦おしっこが漏れ出すと途中で止めるのは難しい。それを、なけなしの気力でもってなんとか止めることができたのは、殆ど偶然と言ってもいい幸運だった。

「出ちゃったのね?」

 おむつカバーの中の様子もユリの胸の内もすっかり見透かしてしまいそうな目つきで、ケイトは決めつけるように言った。そうして、何かを試すみたいに、ユリのおむつカバーの前当てに指をかけてそっと引っ張ってみる。

「でも、マジックテープは外れない、と。出ちゃったけど、おしっこの量はあまり多くないみたいね」

「もう許してください。こんなひどいこと、もう許して」

 おむつカバーの前当てを引っ張りながらこともなげに言うケイトに向かって、ユリは、おむつの厚みのせいでちゃんと閉じることのできない両脚を恨めしそうに見おろして両手をぎゅっと腿の上で握りしめた。

「ひどいことって、やだな〜、そんな言い方。なんだか、私がユリちゃんをいじめてるみたいじゃない。これも訓練だってこと、ちゃんとわかってほしいわね。地球に着いた後、工作が終わるまでどれくらいの潜入期間になるかわからないけど、その間ユリちゃんはずっとおむつなのよ。幼稚園じゃ、年少クラスのお友達が見ている前で先生におむつを取り替えてもらうことになるのよ。今からその恥ずかしさに慣れておいてほしいから、私はこうして訓練してあげてるのに。私の親心もわかってほしいわね。これは、おむつに慣れるためのおむつ教練なんだから」

 ケイトは軽く首を振って、しれっとした顔で言った。

 それに対してユリは恨めしげな目つきでケイトの顔を見上げるばかりだ。言い返したいことは幾らでもあるけれど、地球に潜入するためと言われると、ついつい口ごもってしまう。

「でも、ま、最初から無理強いはよくないかもしれないわね。強引過ぎてユリちゃんがおむつを嫌いになっちゃったら困るし。ここは、少しずつ慣れてもらった方がいいみたいね」

 無言で唇を尖らせるユリの顔を見おろしてケイトは片方の眉を吊り上げてくすっと笑うと、ユリの体を便座から抱き上げてトイレの床にそっと立たせた。

「そんなにおしっこしたくないなら、トイレから出してあげる。でも、いいのね? これが最後のトイレなのよ。最後に、トイレでおしっこしておかなくて本当にいいのね?」

 ケイトは、床に立たせたユリに、念を押すみたいに言った。

 それに対してユリはぽつりと応える。

「トイレでって言っても、場所はトイレだけど、実際はおむつの中なんだから……」

 恨めしそうにそう応えながら、最後の方は羞恥のあまり言葉にならない。

「そう。じゃ、出ましょう。カタンお姉ちゃんとボビンお姉ちゃんがお待ちかねよ」

 ケイトは目を細めて頷くと、ユリの手を引いてドアの前に進んだ。

 おむつの厚みのせいで両脚をきちんと閉じることができないところに持ってきて、幾らか漏らしてしまったおしっこを吸った布おむつがじとっと下腹部の肌に貼り付く感覚があって、ついつい脚を開きぎみにしながらケイトに手を引かれてついて行くユリ。おむつで丸く膨らんだスカートの裾を揺らして歩くユリの姿は、まだ足取りもおぼつかない幼児さながらだった。



 ユリと一緒にトイレから出たケイトは、居住エリアで待っていた二人も合わせ連れて、ジムエリアに向かうエレベーターに乗り込んだ。

 エレベーターと言っても、すぐ頭に思い浮かぶような普通のエレベーターではない。居住エリアからコロニーの隔壁までは水平に走行し、隔壁に達すると今度は鉛直方向に走行することになるから、搭乗員は頑丈な座席についてシートベルトで体をしっかり固定する必要がある。さもないと、水平から鉛直に走行方向が変化するのに伴って座席の位置が変化する時に(水平走行時は後ろ側の壁だった部分が鉛直走行時は床になるよう、走行方向の変化に合わせて、エレベーター内の座席が、床と壁に造り付けになっているレールに沿って動くような構造になっている)座席から振り落とされかねない。また、エレベーターはリニアモーター駆動になっているのだが、シャフトの全行程に渡って電極が設置してあるわけではなく、駆動部分は、出発地点から数百メートルの範囲内に限られている。本来ならシャフトの全行程を駆動部分にして滑らかな走行を確保したいところだが、少しでもエネルギーの消費を抑えるために、出発時の短時間の内に目的地に到着するために必要な速度まで加速し、その後は慣性走行に移るという走行パターンが採用されているのが実状だ。そのため、出発時の加速は、コロニー内の疑似重力の倍に匹敵する0.6Gに達する。この加速に耐えるためにも、耐Gシートになってる座席とシートベルトがどうしても必要になるのだった。そんな事情で、ジムエリアに向かうエレベーターは、エレベーターというよりも、電磁カタパルト射出方式のマスドライバーと表現した方が正確な、いささかスリリングな乗り物に仕上がっているわけだ。



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